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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)48号 判決

東京都足立区竹の塚一丁目五番一八号-三〇二

原告

春日博道

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

羽倉佐知子

東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号

被告

荒川税務署長 倉若弘

右指定代理人

武田みどり

寺島進一

浦川譲

郷間弘司

木下茂樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和六三年分所得税について、平成元年九月二九日付けでした更正のうち総所得金額二四七万六二四九円、納付すべき税額一一万八〇〇〇円を超える部分及び平成二年二月一九日付けでした過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が原告の平成元年分所得税について、平成二年七月三一日付けでした更正のうち総所得金額三一二万八六二一円、納付すべき税額一二万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和六三年分所得税について、原告が青色の申告書によってした確定申告、被告がした更正(以下「六三年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「六三年分賦課決定」といい、六三年分更正と併せて「六三年分各処分」という。)並びに六三年分更正に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表一記載のとおりである。

2  原告の平成元年分所得税について、原告が青色の申告書でした確定申告、被告がした更正(以下「元年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「元年分賦課決定」といい、元年分更正と併せて「元年分各処分」という。)並びに元年分各処分に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表二記載のとおりである。

3  六三年分更正及び元年分更正(以下「本件各更正」という。)はいずれも右各年分の原告の所得を過大に認定してされたものであるから違法であり、本件各更正を前提とする六三年分賦課決定及び元年分賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)も違法である。

よって、原告は本件各更正及び本件各賦課決定の各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の各事実は認める。

三  抗弁

1  六三年分更正の適法性

原告の昭和六三年分の所得税に係る総所得金額及びその算出の根拠は次のとおりである。

(一) 申告総所得金額 二四七万六二四九円

原告が確定申告書に記載した総所得金額(事業所得の金額)である。

(二) 加算金額 二一〇万〇〇〇〇円

原告は、昭和六三年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、原告の妻春日えみ子(以下「えみ子」という。)に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除した。

しかし、被告は、昭和六二年三月一三日付けで、所得税法(以下「法」という。)一五〇条一項一号に基づき、原告の昭和五八年分以降の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をしたから、原告は同年分以降青色申告者に対する特典である青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができない。そこで、右青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除額の控除を否認して、右各金額を申告総所得金額に加算したものである。

(三) 減算金額 六〇万〇〇〇〇円

本件青色申告承認取消処分がされたことに伴い、原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額を認容して、これを申告総所得金額から減算したものである。

(四) 総所得金額 三九七万六二四九円

右(一)の金額に、右(二)の金額を加え、右(三)の金額を減じた金額である。

以上のとおり、原告の昭和六三年分の総所得金額は三九七万六二四九円であり、六三年分更正に係る総所得金額と同額であるから、六三年分更正は適法である。

2  元年分更正の適法性

原告の平成元年分の所得税に係る総所得金額及びその算出の根拠は次のとおりである。

(一) 申告総所得金額 三一二万八六二一円

原告が確定申告書に記載した総所得金額(事業所得の金額)である。

(二) 加算金額 二一〇万〇〇〇〇円

原告は、平成元年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したが、右1の(二)のとおり、原告は青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができないから、右青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除額の控除を否認して、右各金額を申告総所得金額に加算したものである。

(三) 減算金額 八〇万〇〇〇〇円

右1の(三)と同様、えみ子に係る事業専従者控除額を認容して、これを申告総所得金額から減算したものである。

(四) 総所得金額 四四二万八六二一円

右(一)の金額に、右(二)の金額を加え、右(三)の金額を減じた金額である。

以上のとおり、原告の平成元年分の総所得金額は四四二万八六二一円であり、元年分更正に係る総所得金額と同額であるから、元年分更正は適法である。

3  六三年分賦課決定の適法性

六三年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一五万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万五〇〇〇円を賦課した六三年分賦課決定は適法である。

4  元年分賦課決定の適法性

元年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一三万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万三〇〇〇円を賦課した元年分賦課決定は適法である。

四  抗弁に対する原告の認否及び主張

1(一)  抗弁1(六三年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実は認める。

(二)  同(二)(加算金額)のうち、原告が昭和六三年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したこと、被告が本件青色申告承認取消処分をしたことは認め、主張は争う。

(三)  同(三)(減算金額)のうち、原告が従来えみ子を青色事業専従者としていたことは認め、主張は争う。

(四)  同(四)の主張は争う。

2(一)  同2(元年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実は認める。

(二)  同(二)(加算金額)のうち、原告が平成元年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として、一〇万円を控除したことは認め、主張は争う。

(三)  同(三)(減算金額)の主張は争う。

(四)  同(四)の主張は争う。

3  同3(六三年分賦課決定の適法性)及び4(元年分賦課決定の適法性)の主張は争う。

4  原告の主張

(一) 被告は法一五〇条一項一号に基づくものとして本件青色申告承認取消処分をしたが、原告は、法一四八条一項に従って帳簿書類の備付け、記録及び保存をしていたから、法一五〇条一項一号に該当する事実は存在しない。

仮に、本件青色申告承認取消処分が、被告所部職員によって所得税調査の際に原告が帳簿書類を提示しなかったとの理由によるものであるとしても、法一五〇条一項一号の文理上、かかる事由が同号に該当するものではない。のみならず、原告は被告所部職員による調査の際、帳簿書類を同職員に提示したにもかかわらず、同職員は、当初から原告に対し不利益な処分をすることを目的として、敢えてこれを検査しようとせず、粗暴な振舞いに及んだ末勝手に辞去したものである。

したがって、本件青色申告承認取消処分は違法であるから、これを前提とする本件各更正も違法である。

(二) また、税務署長が、青色の申告書による所得税の確定申告に対し、青色申告承認取消処分がされているとして更正する場合には、これに先行する青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務があると解すべきである。特に、本件では、原告は本件青色申告承認取消処分が違法であるとして不服申立てをし、さらにその取消しの訴えを提起していたところ、平成三年一月三十一日東京地方裁判所において、本件青色申告承認取消処分等を取り消す旨の判決がされているから、かかる審査をしていれば、本件青色申告承認取消処分が違法であることが判明したはずである。したがって、本件各更正には、これに先行する本件青色申告承認取消処分が適法かどうかの審査を怠った違法がある。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件各更正の適否について

1  抗弁1(六三年分更正の適法性)の(二)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)のうち、原告が昭和六三年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したこと、及び、被告が本件青色申告承認取消処分をしたこと、同(三)(減算金額)のうち、原告が従来えみ子を青色事業専従者給与額としていたことは、当事者間に争いがない。そして、右のとおり、被告が本件青色申告承認取消処分をしたのであれば、原告は昭和五八年分以降青色申告者に対する特典である青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができず、また、これに伴って原告が従来青色事業専従者としていたえみ子に係る事業専従者控除額の控除を受けるべきこととなるから、原告の昭和六三年分の所得税に係る総所得金額は抗弁1の(四)のとおり三九七万六二四九円と算出され、右金額は六三年分更正に係る総所得金額と同額である。

2  抗弁2(元年分更正の適法性)の(一)(申告総所得金額)の事実、同(二)(加算金額)のうち、原告が平成元年分の確定申告に係る総所得金額の計算に当たり、えみ子に対する青色事業専従者給与の額として二〇〇万円を必要経費に算入し、青色申告控除額として一〇万円を控除したことは、当事者間に争いがない。そして、右1のとおり、被告が本件青色申告承認取消処分をしたのであれば、右1と同様に原告は青色事業専従者給与額の必要経費算入及び青色申告控除の適用を受けることができず、また、これに伴ってえみ子に係る事業専従者控除額を控除を受けるべきこととなるから、原告の平成元年分の所得税に係る総所得金額は抗弁2の(四)のとおり四四二万八六二一円と算出され、右金額は元年分更正に係る総所得金額と同額である。

3  原告は、本件青色申告承認取消処分が違法であるからこれを前提とする本件各更正も違法であると主張する。

しかし、処分の取消訴訟において、先行行為の要件についての瑕疵を後行行為の違法事由として主張することができるのは、先行行為と後行行為とが一連の行為として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるような場合に限られるものと解される。

しかるところ、青色申告承認取消処分は、納税義務者に対し各種の特典を伴う青色の申告書によって申告することができる資格を付与する青色申告承認処分を取り消すことによって、その取消原因の存する年度に遡及して右の資格を喪失させる処分である(法一四三条、一五〇条一項)から、納税義務者の資格に関する処分あるいは納税申告の方法を規制する処分ということができる。他方、所得税の更正は、申告書の提出があった場合において、これに記載された課税標準又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他課税標準又は税額等が税務署長の調査したところと異なるときに、税務署長が、申告書の記載を是正してその課税標準又は税額等を確定する処分である(法一五四条一項、国税通則法二四条)。そして、法律上青色申告承認取消処分がされたからといって必ず課税標準等が変動するというものではなく、青色申告承認取消処分をしたときは常に所得税を更正しなければならない建前ともなっていない。そうすると、青色申告承認取消処分と所得税の更正とは、これらが一連の処分として相結合して一つの法的効果の実現を目指し、これを完成する関係にあるとはいえないから、所得税の更正の取消しを求める訴訟において、その取消原因として、当該更正に先行する青色申告承認取消処分の違法事由を主張することはできない。

したがって、原告の右主張はそれ自体失当である。

4  原告は、また、青色の申告書による所得税の確定申告に対し、税務署長が、青色申告承認取消処分がされているとして更正及び加算税賦課決定する場合には、これに先行する青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務があるものと解すべきであるから、これを前提として、本件各更正にはこれに先行する本件青色申告承認取消処分が適法かどうかの審査を怠った違法があると主張する。

しかし、青色の申告書による所得税の確定申告に対し青色申告承認取消処分がされているとして更正をする場合において、右青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務を税務署長に課した法令の規定は存在しない。のみならず、青色申告承認取消処分は、所得税の更正とは別個の独立した処分であり、かつ、右2のとおり、仮に先行する青色申告承認取消処分に瑕疵があっても、これによって所得税の更正が違法となるものではないから、税務署長は右の更正をする場合において、これに先行する青色申告承認取消処分が適法かどうかを審査する義務を負うものではないというべきであって、このことは、青色申告承認取消処分につき不服申立てがされ、又は取消しの訴えが提起されていたとしても、変わるものではない。

したがって、原告の右主張もそれ自体が失当である。

5  そうすると、本件各更正はいずれも適法である。

三  本件各賦課決定の適否について

1  六三年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一五万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万五〇〇〇円を賦課した六三年分賦課決定は適法である。

2  元年分更正に基づいて原告が新たに納付すべき税額は一三万円であるから、国税通則法六五条一項により右税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額一万三〇〇〇円を賦課した元年分賦課決定は適法である。

4  結語

以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

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